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4. 契約成立以前に作業を開始したためトラブルになった事例

Last-modified: 2012-09-24 (月) 16:24:56 (2464d)
Top / 4. 契約成立以前に作業を開始したためトラブルになった事例

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事例概要

  • 原告:システム開発及び運用会社(ベンダ)
  • 被告:大手電気通信事業者(ユーザ)
  • 請求内容
    損害賠償請求(1億円)(内訳:システム開発費用約2億2000万円、端末機在庫費用6500万円、システム維持費用3120万円、サービス開始遅延に係る対応費用約350万円など約3億円のうち1億円を一部請求)
  • 経緯
    ユーザは、再入金可能な国際電話用プリペイドカードシステム(本件システム)の導入を検討し、ベンダとの間で技術的検討を内容とする覚書を締結した。その後、技術的問題が解消され、ユーザはベンダに対し、本件システムを採用する旨の通知を行ったものの、本件システムを利用したカードサービスの開始直前にセキュリティ上の理由から入金方式(使い捨て方式へ)の変更を要求し、カードサービス開始が延期となり、結局本件システムは採用されなかった。ベンダはユーザに対して、本件システムの開発費用及び当該遅延によって生じた損害等の賠償を求めた。

争点

覚書だけであっても、ユーザに本件システムを採用する義務があるか。

  • ベンダの主張 覚書締結の際、技術的問題がなければ採用するとの合意があり、実際に技術的問題はクリアされたのであるから、ユーザには採用義務がある。
  • ユーザの主張 ユーザは本件システムを利用する立場であって、採用する義務などそもそもない。また、サービス開始時期も確定的なものではなかった。

判決

  • ベンダの請求全額認容。覚書締結時点で、一定の条件を満たせば本件システムを採用するとの合意があったと認定。当該条件も成就しているので、ユーザには覚書によって定められた時期にサービスを開始する義務があったと認定された。

反省点

  • システムを採用する義務(時期)についても、契約書で明確に決めるべきである
    本件ではシステム採用に関する正式な契約書がないものの、サービス開始に向けた技術的検討に関する覚書の締結の際に、本件システムがユーザのシステムと接続可能で、技術的問題(二重化の上、24時間365日安定稼働すること)が達成できれば採用するとのユーザとベンダの合意があったと認定され救済されたが、これは極めて珍しい例である。本件のような紛争を生じさせないためにも、システムを採用する義務を負う条件及び時期についても契約書等の書面によって明確かつ具体的に定めるべきである。
  • 仕様を契約書によって明確に規定するともに、ユーザの社内でも早期に情報を共有すべきである
    本件紛争の原因は、本件システムを利用したサービス開始直前に、セキュリティ上の問題を理由としてユーザの経営会議で決裁が出ず、急遽カードの入金方式の変更を余儀なくされた点にある。裁判では、ユーザは当初よりセキュリティ上の問題は認識した上で後に検討することを了解しており、サービス開始延期の正当な理由にはならないと判断された。担当者レベルの認識と経営者レベルの認識のズレによって生じた紛争であり、ユーザの社内でサービス開始直前ではなく早期に仕様について情報を共有できていればベンダの損害の拡大を防げたかもしれない。

モデル契約書活用のポイント

  • モデル契約書<第一版>では、コンピュータシステム構築の作業段階ごとに契約を締結することを勧めている。本件では、要件定義作業に入る段階までに、モデル契約書を使い、「どのような作業を実施するか」、「費用と納期」、特に「途中で変更が発生した場合はどうするか」について詳しく詰めるべきであった。 具体的にはモデル契約書<第一版>システム基本契約書を締結することで、同契約書第33条以下の規定に基づき、変更内容を書面で明確化(同第33条ないし第35条)し、予め当事者間で合意した変更管理手続(同第37条)に従って実施することで、契約内容に変更が生じた場合の各当事者の役割及び責任分担を明確化することができ、本件のような紛争を防げるものと考えられる。
  • また、ユーザはベンダに対して、提案依頼書(RFP)の中で非機能要件として必要なセキュリティ要件を要求するとともに、別途「セキュリティ仕様書」などを使用してセキュリティ対策についても書面によって明確にすべきであった。