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3. 契約成立以前に作業を開始したためトラブルになった事例

Last-modified: 2012-09-24 (月) 16:24:08 (2550d)
Top / 3. 契約成立以前に作業を開始したためトラブルになった事例

A.契約前の作業 トラブル原因分類 FrontPage


(参考:東京地方裁判所 平成17年3月28日判決(平成15年(ワ)第2334号))

事例概要

  • 原告:システム開発会社(ベンダ)
  • 被告:インターネット接続会社の一次代理店(ユーザ)
  • 請求内容
    損害賠償請求(約1935万円)(内訳:カスタマイズ費用790万円、SE費用645万円、ハードウェア費用500万円)
  • 経緯
    ユーザは二次代理店への手数料の支払いや二次代理店、顧客の管理等を行うシステムの導入を検討し、ベンダを含む3社に見積書の提出を求めて、主にベンダとの交渉を開始した。最終的に、ベンダ提案の見積額についてユーザ社内の稟議が通らず、システム導入が延期された。ベンダは既に請負契約は成立しておりユーザが一方的に契約解除したとしてユーザに損害賠償を請求した。

争点

契約書がなくとも請負契約が成立しているか。 ベンダの主張

  1. キックオフミーティング議事録にユーザが押印している。
  2. 有償作業へ移行したことをユーザは了解していた。
  • ユーザの主張
    1. 議題が「キックオフミーティング」となっているだけで、単なる打合せである。ユーザから契約締結の3条件を提示したが、当該ミーティング時点になってもベンダはその条件が満たされたのかについてユーザに確認しなかった。
    2. ベンダが一方的に有償作業を開始したに過ぎず、ユーザは何ら明確な説明を受けていない。

判決

  • ベンダの請求棄却。
  • ユーザの主張を全面的に認め、請負契約は成立していないと認定された。 

反省点

  • 正式に契約書を締結すべきである
    ベンダは、ユーザが「キックオフミーティング」と題する会議に出席したことをもって、開発作業の開始に同意したことを示すものであるとして契約の成立を主張したが、判決ではそれまでの経緯から当該ミーティングは単なる打ち合わせに過ぎず、ユーザの出席に特別な意味はなかったと認定された。
    本件に限らず裁判では、契約書がない状況では、たとえ諸般の事情が考慮されても契約成立が認められる可能性は低い。キックオフミーティングやセレモニーを経ても契約が成立したことにはならず、ベンダはユーザとの間で、開発対象物、金額、作業内容、完成時期(納期)等の契約の内容について、書面で合意すべきであった。
  • 契約書を正式に締結してから、有償作業に入らなければならない
    本件紛争の原因は、契約締結に基づくユーザからの正式な発注がない段階で、ベンダが契約は成立したものと一方的に解釈し、有償作業を進めてしまった点にある。ハードウェア購入の点をみても、ユーザに見積書を送ってその後返答がなかったが、ベンダはユーザの意思を確認することなく当該見積書に異議がないものと解釈して購入してしまっている。
    このように、契約書を締結しないままベンダが一方的に作業を進めた場合、当該作業に掛けた費用は全てベンダの責任となるリスクがある。なお、契約書さえ締結しなければ、ユーザがベンダに対しいかなる要求を行っても、ユーザはベンダの作業費用を負担するリスクを負わなくてよいということにはならない点に留意する必要がある。

モデル契約書活用のポイント

  • モデル契約書<追補版>では、コンピュータシステム構築の作業段階ごとに契約を締結することを勧めている。本件では、要件定義作業等の有償作業に入る段階までに、モデル契約書を使い、「どのような作業を実施するか」、「作業におけるユーザ、ベンダの役割は何か」、「費用と納期」について詳しく詰めるべきであった。 具体的にはモデル契約書<追補版>のシステム基本契約書を締結することで同契約書第2条のとおり当該システム基本契約に法的拘束力をもたせるとともに、重要事項説明書として「A要件定義支援及びパッケージソフトウェア候補選定支援業務契約」及び「Bパッケージソフトウェア選定支援及び要件定義支援業務契約」の内容を一つ一つ埋めることで、作業上の疑問点や漏れを防ぐことができ、かつ、相互の作業範囲が明確になった段階で契約が締結できるため、各業務の責任分担を明確化でき、本件のような紛争を防げるものと考えられる。