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2. 契約成立以前に作業を開始したためトラブルになった事例

Last-modified: 2012-09-24 (月) 16:23:22 (2434d)
Top / 2. 契約成立以前に作業を開始したためトラブルになった事例

A.契約前の作業 K.自治体関連 トラブル原因分類 FrontPage


(参考:名古屋地方裁判所 平成16年1月28日判決(平成11年(ワ)第3685号、平成12年(ワ)第335号))
(外部参照:ソフトウェア取引における紛争事例を巡る判例に関する調査 (SOFTIC 17-3)

事例概要

  • 原告:地方自治体(ユーザ)
  • 被告:ソフトウェア開発会社(ベンダ)
  • 請求内容
    (本訴)損害賠償請求(約2億4000万円)(内訳:住宅記録システムに係るリース料及び保守料、その他データ移行作業料等)
    (反訴)請負代金請求(1億円)
  • 経緯
    ユーザは総合行政情報システムの導入を検討し、ベンダを含む5社に提案書及び見積書を提出させ、ベンダを指名業者とすることを決定した。総合OAシステム等の導入に成功したが、税関連システムのカスタマイズ費用が当初の予算を大きく超えることが判明し、同システムの導入を断念した。ユーザは、各システム(総合OAシステム、住民記録・税関連システム等)は有機的一体の一つのシステムであり、これら全てを期限内に導入するという本件基本契約が成立していたのに、ベンダの債務不履行によりかかるシステムの導入が実現できなかったとして、ベンダに対し損害賠償を請求した。

争点

基本契約及び税関連システムに係る個別契約は成立したか。

  • ユーザの主張
    1. 提案書及び見積書の提示は契約の申込、採用通知は申込の承諾に該当し、よって本件総合システムに関する本件基本契約は成立している。
    2. 特に住民記録システムと税関連システムは情報の共通利用及び一括処理が可能な一体性の強いシステムであり、両者全体を完成させることが一つの請負契約となっていた。
    3. ベンダはパッケージの標準機能で十分利用可能と約束していた。 ベンダの主張 そもそもユーザ主張の本件基本契約などは存在しない。税関連システムについては住民記録システムとは別に個別契約は成立している。

判決

  • ユーザの請求棄却。
  • ベンダの請求も本件争点については棄却。両者は未だ交渉段階で総合行政情報システムの導入に係る漠然とした合意があったに過ぎず、ユーザ主張の本件基本契約及び税関連システムに係る個別契約は成立していなかったと認定された。

反省点

  • 契約書に基づきカスタマイズに関する取り決めを明確にすべきである
    裁判では、ユーザにおいて採用通知書を提出するまでに当該パッケージソフトについてカスタマイズの要否、必要であればその範囲及び費用などの検討を具体的にした形跡がなく、このようにカスタマイズ費用などの重要な点につき具体的な内容が確定していない段階では、ユーザ主張の本件基本契約は成立したとは認められないと判断された。また、同様にカスタマイズ費用等の具体的内容が定まっていないとして税関連システムに係る個別契約の成立も認められず、ベンダからの当該システムのカスタマイズ費用に係る請求も認められなかった。
    本件は正式契約書が締結されていない段階で、ベンダがユーザの稼働予定時期に配慮して作業に着手することのリスクを示している。
  • 地方自治体に関する特殊事情に十分留意する必要がある
    地方自治体の特殊事情として、例えば本件で問題となった税関連システムなどは地方自治体ごとに独自の税計算式や帳票などが存在し、しかも従来の方式に地方自治体が拘るとカスタマイズが難航する可能性が高い。他方で、地方自治体にはシステム構築に関する経験が豊富な職員が必ずしも多いわけではなく、ベンダを選定して詳細を詰めることも十分予想され、予算の柔軟性に乏しい点も鑑みると、ユーザが地方自治体である場合はモデル契約書に従って作業段階ごとに両者の役割・責任を明確化して進めることが望ましい。
  • ベンダの提案に対し、ユーザは十分に検証すべきである
    本件は当初の予想を超えるカスタマイズが必要となったが、カスタマイズ費用を最小限に抑えたかったユーザがベンダの提案を鵜呑みにしてしまった点にも原因がある。コンペであった以上、ベンダが提案するカスタマイズで本当に足りるかについてユーザとして検証すべきであった。

モデル契約書活用のポイント

  • モデル契約書<追補版>では、システム基本契約及び作業段階ごとの個別契約を締結することを勧めている。本件のような事例では、ユーザが地方自治体であったとしてもモデル契約書<追補版>システム基本契約書を締結するとともに、パッケージソフトウェア・カスタマイズモデルである「A 要件定義支援及びパッケージソフトウェア候補選定支援業務契約」及び「B パッケージソフトウェア選定支援及び要件定義支援業務契約」の各個別契約を締結し、作業内容の全体像を共有するとともに両者の役割・責任を明確化すべきである。なお、事例の「本件基本契約」とモデル契約書における「システム基本契約」とは全く関係がなく、内容も異なる。