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ソフトウェアの画面保護を目論む意匠法改正について(2012年10月29日)

Last-modified: 2012-11-02 (金) 18:03:50 (2514d)
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旬なコラム  FrontPage

ソフトウェアの画面保護-議論が進む意匠法改正

 ソフトウェアの画面デザインの保護について、意匠法の改正議論が産業構造審議会で行われている。Webやアプリケーションの画面デザインが権利化されることで今後、我が国でもApple対サムソンのような裁判が増えるかもしれない。そうなれば、プログラマやデザイナーの業務範囲として、画面デザインが第三者の権利を侵害していないかなどのチェックという新しい仕事が増えるだろう。当然、法務部門もこれらが法的リスクとなることから、産構審での議論は重大な関心事といえる。産構審の意匠制度小委員会の資料をもとに議論のポイントを整理してみたい。

諸外国に比べ意匠法による画面デザイン保護は限定的?!

 この資料によれば、現行の画面デザインの保護は「意匠法による保護は非常に限定的であり、汎用機の画像や、ウェブサイトの画像等は保護対象外」とされている。ここでいう汎用機の画像とは、PCなどのハードウェアとソフトウェアが一体ではないデバイスを指す(当然、ニンテンドーDSやSonyのPSVも対象ではない)。現行法は、電子辞書などのハード・ソフトが一体となっているものを対象としており、後からソフトだけを追加(バージョンアップも含む)できるような場合や、インターネットを通じてダウンロードされる画像なども保護の対象にならない。PC・スマートフォンのソフトウェアやWeb全般の画面デザインは、著作権法や不正競争防止法の範囲で保護されるのが現状ということになる。 こうした現状を踏まえ「米国・欧州・韓国を含む諸外国においては、既に広範な画像デザインの保護を行っており、さらに、現在は画像デザインを保護対象外としている中国においても、近年画像デザインの意匠法による保護について議論する動きがある」とされており、諸外国の動向に比べ、保護の対象が狭いことに強い危機感を感じていることが伺える。

意匠法によるデザイン保護のメリットとは

 では、意匠法による画面デザインの保護のメリット、デメリットは何なのだろうか。先ほども述べたように現行法制では、画面デザインは著作権法や不正競争防止法で権利を主張する以外に方法はない。しかし、画面デザインの創作性が認められる範囲が狭いため、デッド・コピー以外は著作権の侵害に当たらず、GUIの見た目の印象が似たものについては保護が難しく、立証負担が大きいとされている。
 ところが意匠法で保護すれば、①登録審査を受けることから模倣品対策での権利立証負担が少ない、②登録されたデザインは公報されるため牽制効果やクリアランス範囲が明確、③権利帰属が明確となり、ライセンス等の活用がやりやすい、④意匠権では類似の範囲まで権利が及ぶ、などのメリットが出てくる。 一方で、画面デザインが保護の対象となることで、①創作や製品開発の自由を阻害し企業活動の障害となる、②後から追加されたソフトウェアの画像の権利によって機器メーカーが不測の不利益を被る懸念、などのデメリットもあげられている。

物品との一体性要件にみる諸外国の戦略

 現行制度は、特定専用機の製造時にビルトインされているプログラムで表示される画面だけが守られ、バージョンアップで追加される画像やインターネットを介して外部から提供される画像は保護対象外だ。ソフトウェアベンダからみれば実に奇妙な話だが、これは「物品との一体性要件」といわれ、ハード・ソフトが一体でないと権利化ができないのである。
 米国では、意匠特許を「製造物品のための装飾的デザイン」としており、画像デザイン単体では保護の対象とならないが、画像デザインが物品に表示された状態ならば、専用機・汎用機を問わず保護の対象となり、権利化ができるようになっている。従って、アイコン単体でもディスプレイで具現化されれば保護されるが、デザインが応用される対象物(この場合はディスプレイを指す)からは分離不可能で、図柄単独(印刷物など)での意匠特許は認められない。「物品との一体性要件」が緩和されており、対象となる製造物品が幅広く認められる。
 さらに欧州は、米国よりも進んでおり、「意匠とは、製品の全体又は一部の外観」としており、製品の範囲も「部品、包装、図形的表現、印刷書体」などを対象としている。GUIやアイコンの権利化も認められており、さらに、アイコンがディスプレイ上に表示されたものでも、印刷されたものでも権利が及ぶとされている。日本や米国と違い「物品との一体性要件」を求めていないのが特徴だ。
 こうしてみると、米国の制度、は市場成長の著しいIT分野で柔軟な姿勢をとっており、また、GUIやアイコンなどがIT産業の差別化戦略に重要な役割を果たしていることをよく理解しているといえる。また、欧州はルイ・ヴィトン、グッチ、シャネルに代表されるロゴやデザインを知的財産として保護し、さらには、そのデザインがどのような形で表現されても保護しようという意識が垣間見れる。いずれも、デザインを重要な産業もしくは中核の要素として認識しているわけだ。

日米欧の比較

 改めて三類型を整理すると、以下のようになる。
 日本:物品との一体性が求められ、権利の範囲も類似物品までしか効力が及ばない。従って、権利の有効性や範囲の予見性は高いが、物品ごとに権利化する必要があり煩雑である。しかも、PCやスマートフォンは汎用機なので権利が成立しない。
 米国:画像を物品の一部、もしくはアイコン、GUIとして権利を認め、表示画像全般に及ぶ権利として考える。つまり、製造物品で(TVでもスマートフォンでも)「表示」されれば保護される。従って、権利の有効性が曖昧になりやすく予見性も低下する。他方、一つの出願であらゆる画像に権利が及ぶことから手続きの負担が軽い。
 欧州:物品との一体性はなく、画像単体で権利化ができる。一つの意匠権で、画像全般と有体物の模様に及ぶ権利が得られる。権利の有効性や予見性が低下する恐れがあり、第三者の権利を監視する範囲が広い。

業界団体の意見は分かれている?!

 今後、どのような方向に進むのか、業界としては最大限の注意を払って議論を見守りたいが、実は、IT関連の業界団体としては、意匠法改正について大きく意見が分かれている。受託系ベンダを中心とした団体は、権利侵害のコスト負担や顧客との関係から意匠法改正にもっとも消極的な立場をとっている。特に、業務用アプリケーションは誰が作っても同じようなものになることから、意匠権侵害が発生しやすいという懸念があるからである。例えば、スケジューラーは誰が作ってもカレンダー形式にならざるを得ず、こうしたものが権利化されては困るという指摘である。
 一方で、CSAJはパッケージベンダの立場から、GUI、アイコンの保護に熱心であり、意匠法改正を支持している。著作権では意匠が保護されず侵害されるという懸念からの改正支持である。また、誰が作っても同じようになるデザインに独創性が認められるのかという意見も多く、前述の懸念はそもそも当たらないという声もある。
 このように書くと、意匠法改正は、侵害と保護という業界内での相反する立場の対立になりやすく、議論の収束が得られないように思える。しかし、現時点で意匠法改正を対立的視点で語ることは本質的ではない。
 ひとつは、特許庁から権利化に向けた基準が明示されていない段階であるということだ。となれば議論はどうしても保守的にならざるを得ない。特許庁は、具体的かつ分かりやすい基準を提示し懸念の払拭をすべきだろう。
 もうひとつは・・・ 例えば10年後の自動車を想像して頂きたい。我が国が誇る様々なセンサー技術とそれに連動するITSの進化は明らかだ。すでに、対物センサーで自動的にブレーキをかけるシステムは実用化され市販に至っている。今後は、死角にいる歩行者や自転車、障害物を表示したり、数十台前の車の急ブレーキを検知して自動的にスピードを落とすなどの安全性に向けた高度化が進む。そこでは(音や振動も組み合わされた)視認のしやすい直感的なディスプレイが、危険回避を回避するためのユーザインターフェースとして提供されるだろう。当然、生命に関わるGUIは、自動車会社にとって最大の競争、差別化のポイントになる。ダッシュボードの表示はHTML5、もしくは、それらを基にしたロバストな発展系によって表示されるのではないか。こうした技術の発達に耐えうる権利保護の議論が重要ということである。

 

 また、意匠法改正によるデメリット、つまりよくある反論として、知財侵害の有無に関わるコストが上げられる。デザインが侵害を犯していないかをチェックするのが大変という事だ。果たしてそのコストをユーザが負担してくれるのか、とすれば、要件定義から外部設計に至る業務に意匠法改正は影を落とすというのだ。これも、登録要件の明確化や検索の手法を工夫することで、軽減が可能である。こうした点については、わが業界が率先して、諸外国を遙かに上回るシステムを提案したいところでもある。

未来に向けて

 昔話で恐縮だが、1990年前半の電子手帳の勃興期には、当時、カシオ計算機とシャープの間でおびただしい表示に関わる実用新案申請が繰り広げられ、まさに戦争状態にあった。筆者も、とある開発案件でまさに積み上げられた実用新案の公報に取り囲まれた時期がある。当時の電子手帳に関わった多くのベンダは実際にその実用新案の轍を踏まぬよう、知恵を絞り、新しいアイディアを実現し、自らの生き残りをかけて製品を設計しユーザを獲得していった。もちろん、筆者も含め多くが挫折したが、そこで得たノウハウや知財は後々、極めて重要な資産となった。相手の土俵に乗らない戦い方を身につけるようになったのも、この経験があればこそ身についたものだ。知財の争いは、権利が強ければ強いほど敗者に厳しいが、新しいパラダイムを生み出す原動力にもなる。
 デザインは蓄積されるノウハウである。今の米国、欧州、韓国のスマートフォンベンダは、Apple対サムソンのように、意匠特許によって生き残りをかけた激しい競争をしている。そしてコピーキャットと呼ばれないように、よりよいデザインで差別化し、ノウハウを蓄積する状態にある。ずるずるとぬるま湯に浸かっていると、すべての市場を失うことになるのではないか。(LS)